コロン えりかさん
声楽家
プロフィール
1998年卒業、70回生。2002年に聖心女子大学文学部教育学科、2004年同大学院を卒業後、聖心インターナショナルスクールで3年間勤務。その後、英国王立音楽院へ留学し、声楽家として本格的に演奏活動をスタート。三児の母となった現在も、子育てと両立しながら演奏活動の他、講演会や執筆活動など国内外で精力的に活動している。駐日ベネズエラ大使夫人。
悩んでいた私を受け入れてくださった
シスターの言葉に、今も支えられています。
ベネズエラで生まれた私は、10歳のときに来日しました。当時、マザーテレサの本に感動を覚え、キリスト教の精神やシスターの生き方に強い関心を持ち、小学校5年生の冬に洗礼を受けました。小林聖心との出会いは、神父様からご紹介いただいたことがきっかけです。学校へと続く坂道を登った先に見えるアンジェラスの塔や素晴らしいシスター方との出会い、キリスト教的価値観に基づく全人教育など小林聖心の魅力に心惹かれ、初めて学校を訪れた日に「絶対にこの学校に行くんだ!」と心に誓いました。
中学受験では、まだ日本語もおぼつかず周囲からは無理だと言われていましたが、「シスターがいらっしゃる学校で学びたいです。」と必死に伝えました。来日当時、私はいじめに苦しみ自分自身の存在意義さえも見失っていました。そのような私を受け入れてくださったのが、小林聖心の校長を務めていらしたシスター山下です。卒業後に「あの時どうして入学を認めてくださったのですか?」とお尋ねしたところ、「あなたみたいな人こそ聖心で育てないといけないと思ったわ。」と答えてくださいました。創立者マグダレナ・ソフィア・バラの言葉「私はたったひとりのためにもこの学校を建てたでしょう。」という言葉が重なりました。一人一人をどんなに大切にして下さっていたか、当時を思い出すと今でも涙がこぼれます。
「みこころのご像」の前で
いつまでも心に深く刻まれ続ける学びや
経験ができました。
中学高校の6年間で経験した、体育祭やEnglish Dayの英語劇、クリスマス・ウィッシングは私にとって青春でした。女子校という環境の中で伸び伸びと打ち込んでいたことを思い出します。そこで育まれた仲間意識は非常に強く、卒業した現在でも仲間との深い繋がりを実感しています。
小林聖心には、中高で取り組む学校行事がたくさんあります。先生や仲間が一致団結し行事を作り上げていくことで、学年や立場を越えた家族のような深い関係が育まれるのだと体感することができました。その他印象的なのは、在校生やその家族、卒業生が聖堂に集まりハレルヤコーラスを歌うクリスマスミサです。聖堂に響き渡る世代を越えたコーラスには圧倒されます。
また、授業では、“Think globally, act locally”という言葉を、どの先生方もご自身の生き方で示して下さいました。教室で授業を受けている自分と外の世界をどうつなげればよいのか、日本と世界、過去と現在、現在と未来の間に立つことについて、よく考えさせられました。あらゆる科目の学びを自分の生き方につなげる作業をしてこそ学問が生きるということを、無意識のうちに教えて頂いていたのだと思います。
クリスマス・ウィッシングではマリア役でした。
中学3年生で経験した阪神淡路大震災。
先生方の優しさが、今の私を形成しています。
中学校最後の年、阪神淡路大震災での経験は忘れられません。震災で私の自宅は全壊し、学校までの通学が困難な避難所での生活を余儀なくされました。その時学校としては異例の措置だったと思いますが、通学が困難になった生徒17名のために、校舎に寄宿舎を用意してくださったのです。寄宿舎生活で不安な気持ちに押しつぶされそうになっても、先生方が必死に寄り添い勇気づけてくださいました。震災は辛い経験でしたが、何のために生かされているのか自分と向き合うきっかけとなり、小林聖心でたくさんの優しさに支えられながら人生を生きるための土台を築くことができたと思います。
また、中学高校の集大成として修学旅行で長崎へ訪れたことは、声楽家としての私の原点です。信徒発見の歴史的な一場面を見守った大浦天主堂のマリア像の前で「アベマリア」を捧げた時、胸が熱くなったことを覚えています。その感動を確かめるべく、大学時代、バックパッカーとして再度長崎を訪れた際に、五島列島や小さな漁村の教会をまわり、浦上天主堂では「被爆マリア像」と出会いました。その翌年、父の作曲したアベマリアを初演して以降、毎年平和記念式典の後、浦上天主堂の平和ミサでこの曲をお捧げしています。長崎から学んだ平和のメッセージは、私の音楽活動の軸となっています。
修学旅行で訪れた大浦天主堂にて
社会とのつながりを意識した教育で
人として大切な心や力が培われました。
小林聖心では、豊かな竹林の先にある静かな空間で慈悲深い先生方に囲まれながら、人間としてしっかりと根を下ろす時間を過ごすことができました。先生方からは、常に社会に対して自分がどのように役立てるのかを問われ、ボランティア活動や行事への取り組みを通して、弱い立場の人々に対する眼差しや感謝する心が育まれました。また、世界中の社会問題をいつも自分自身と関連づけ、物事の本質を見抜く訓練をしてくださったおかげで、国際的な視野や適切な判断力を養うことができました。
仕事で海外へ行き、これまで出会うことのなかった環境や価値観に触れる瞬間、小林聖心で培われた自分自身の価値観が常にコンパスとなり、私の道標となってくれています。長い目で私らしく成長していくことを後押ししてくださった小林聖心での6年間は、人生最大の幸運でした。本当に大切なことは目に見えないものですが、小林聖心はそれが確かに感じられる場所です。
体育祭でチームのみんなと記念撮影(最後列 中央)